【数学史3-4】バビロニアの計算方法は?表を見るだけでかけ算とわり算ができる!

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 $~60~$進法が浸透していたバビロニア(メソポタミア)。

 2種類の楔形文字で表された整数や小数を、どのように計算していたのでしょうか?

 たし算とひき算については、繰り上がりや繰り下がりが$~60~$で行われる以外、現代の方法と大差はありません。

 しかし、かけ算やわり算は「数表」と呼ばれる独自の表を用いて、計算が行われていました。

 この記事では、その数表の中身と実際の計算方法について解説します。

この記事を読んでわかること
  • バビロニアのたし算とひき算の方法
  • バビロニアの計算で使われた「数表」について
  • 「数表」を用いたかけ算やわり算の方法
この記事で主に扱っている時代と場所
時代B.C.1750年頃
場所バビロニア(メソポタミア)
この記事を読んでわかること

バビロニアのたし算・ひき算

 バビロニアでは、土地の測量や軍備の管理のために数学が使われました。

 数学をするうえで基本となる、加減乗除の方法を1つ1つ見てみましょう。

基本は数字を並べるだけ

 位取り記数法により、2種類の数字だけでどんなに大きな数も表せました。

 たし算とひき算については、古代エジプトと同様、同じ種類の数字を足したり引いたりするだけで、計算することができます。

たし算・ひき算の計算例
<図1> 繰り上がりのないたし算
<図1> 繰り上がりのないたし算
<図2> 繰り下がりのないひき算
<図2> 繰り下がりのないひき算

 同じ位の中で、同じ記号どうしをたし算・ひき算する必要があります。

 「1」が10個集まれば「10」になるという点も古代エジプトや現代と我々の計算と同じです。

 もちろん、”$+$”や”$-$”、”$=$”といった記号は存在しなかったのでご注意ください。

60で繰り上がり・繰り下がり

 バビロニアが$~60~$進法あることに基づき、たし算の中で「10」が6個集まったときに、位が1つ上がります

 実際に繰り上がりの例を見てみましょう。

繰り上がりのあるたし算例
<図3> 繰り上がりのあるたし算
<図3> 繰り上がりのあるたし算

 このように同じ位の中で、「10」ができれば記号が変わり、「60」ができれば位が上がるというのが、バビロニアのたし算の難しい点です。

 ひき算についても同様の考え方を使います。

繰り下がりのあるひき算例
<図4> 繰り下がりのあるひき算
<図4> 繰り下がりのあるひき算

 実際の計算では、このように途中式を書いていたのではなく、粘土板に数字を彫っては埋めての繰り返しで計算していたと思われます。

バビロニアのかけ算

 現代のような筆算が無い世界において、かけ算・わり算は難度の高い計算でした。

 古代エジプトでは、「2倍法」という独自の方法を使って、少しでも計算を楽にしています。

 バビロニアでは、少しズルイ(?)方法でかけ算・わり算を行っています。

積表を見るだけでかけ算ができる

 バビロニアには、「数表」と呼ばれる数字がたくさん書かれた表が何種類もありました。

 その中の1つが「積表」です。

バビロニアの「積表」(抜粋)
<表5> 2の積表
かける数$1$$2$‥‥$19$
$2$$4$‥‥$38$
かける数$20$$30$$40$$50$
$40$$1,0$※$1,20$$1,40$

※$~1,0~$は、$~60~$の位が1、$~1~$の位が0であることを表します。

<表6> 16の積表
かける数$1$$2$‥‥$19$
$16$$32$‥‥$5,4$
かける数$20$$30$$40$$50$
$5,20$$8,0$$10,40$$13,20$

 かけ算の仕方は簡単で、この積表から該当する計算を探すだけ

 $~16 \times 19~$をしたければ、$~16~$の積表の中から$~19~$をかけている部分を探し、答えは$~5,4~(304)~$と求めます。

全ての数の積表があったわけではない

 数は無限にあるため、当然ながらすべての積が調べられるわけではありませんでした。

 元の数(かけられる数)として、一般的に次の$~40~$種類の「積表」が使われました。

$~2~$,$~3~$,$~4~$,$~5~$,$~6~$,$~7~$,$~8~$,$~9~$,$~10~$,$~12~$,$~15~$,$~16~$,$~18~$,$~20~$,$~24~$,$~25~$,$~30~$,$~36~$,$~40~$,$~45~$,$~48~$,$~50~$,$~1,15(75)~$,$~1,20(80)~$,$~1,30(90)~$,$~1,40(100)~$,$~2,15(135)~$,$~2,24(144)~$,$~2,30(150)~$,$~3,20(200)~$,$~3,45(225)~$,$~4,30(270)~$,$~6,40(400)~$,$~7,12(432)~$,$~7,30(450)~$,$~8,20(500)~$,$~12,30(750)~$,$~16,40(1000)~$,$~22,30(1350)~$,$~44,26,40(160000)~$

 逆に、かける数としては、先ほどのバビロニアの「積表」でも紹介したように、

$~1~$,$~2~$,$~3~$,$~\cdots~$,$~19~$,$~20~$,$~30~$,$~40~$,$~50~$

という$~23~$種類の数が与えられています。

 すなわち、「積表」を使うことで、$~40 \times 23=920~$通りのかけ算が調べられるということになります。

数表にはたくさんの種類がある

 かけ算で使うのは「積表」ですが、バビロニアには多様な数表が存在していました。

  • 逆数表
  • 「平方数表」「立方数表」
  • 「平方根表」「立方根表」
  • 「指数表」「対数表」(特定の底のみ)
  • ピタゴラス数表」(特定の組み合わせのみ)

 「指数表」と聞くと現代的ですが、実際は底が$~9~$,$~16~$,$~1,40~(100)~$,$~3,45~(225)~$の4種類だけで、それぞれについて$~1~$乗から$~10~$乗までの計算結果が載っていました。

 「指数表」に載っていない数については、載っている数との比例関係によって近似していたこともわかっています。

 

バビロニアのわり算

 わり算については「”商表”」のようなものはなく、「逆数表」と「積表」を組み合わせることにより、計算をおこなっていました。

わり算に必要な逆数表

 「逆数表」は積表と違って1種類だけで、次のように数が並んでいます。

バビロニアの「逆数表」
<表7> 逆数表
元の数$2$$3$$4$$5$$6$
逆数$30$$20$$15$$12$$10$
元の数$8$$9$$10$$12$$15$
逆数$7,30$$6,40$$6$$5$$4$
元の数$16$$18$$20$$24$$25$
逆数$3,45$$3,20$$3$$2,30$$2,24$
元の数$27$$30$$32$$36$$40$
逆数$2,13,20$$2$$1,52,30$$1,40$$1,30$
元の数$45$$48$$50$$54$$1$
逆数$1,20$$1,15$$1,12$$1,6,40$$1$
元の数$1,4$$1,12$$1,15$$1,20$$1,21$
逆数$56,15$$50$$48$$45$$44,26,40$

 この表の注意点が2つあります。

  • 逆数のケタが、数によって違う。
  • 逆数が$~60~$進法で無限小数となってしまう数は載っていない。

 厄介なのは、数によってケタが違うという点で、$~2~$の逆数なら$~0;30~$($~;~$は小数点を表すこととする)、$~1,4~(64)~$の逆数なら$~0;0,56,15~$と、小数点を自分で補う必要があります。

 小数点という概念がそもそもなかったため、この表記は当然と言えるでしょう。
 
 また、$~11~$や$~13~$のように、$~60~$進数において逆数が無限小数となってしまうような数は載っていません。

逆数表と積表の組み合わせでわり算ができる

 逆数表と積表を併用することで、わり算を行うことが可能になります。

わり算の例

(1) $~16\div 3~$

 逆数表より、$~3~$の逆数は$~20~$。

 積表より、$~16 \times 20=5,20~$

 位を1つずらして、$~16 \div 3=5;20~$


(2) $~2\div 1,12~$

 逆数表より、$~1,12~$の逆数は$~50~$

 積表より、$~2 \times 50=1,40~$

 位を2つずらして、$~2 \div 1,12=0;1,40~$

 上の計算例を、現代の分数を使って考えると、どういった原理なのかがわかります。

わり算の例の解説
\begin{align*}
(1)&~~~~16 \div 3 \\
&=16 \times \frac{20}{60} ~~~ (\because ~逆数表) \\
&=16 \times 20 \div 60 \\
&=5,20 \div 60~~~(\because ~積表) \\
&=5;20~~~(\because ~\div 60により位が1つずれる)
\end{align*}
\begin{align*}
(2)&~~~~2\div 1,12 \\
&=2 \times \frac{50}{3600} ~~~ (\because ~逆数表) \\
&=2 \times 50 \div 3600 \\
&=1,40 \div 3600~~~(\because ~積表) \\
&=0;1,40~~~(\because ~\div 3600により位が2つずれる)
\end{align*}

 以上のように、逆数表の段階で何ケタずれているのかを考えてあげないと、商の位もずれてしまいます。

 現存する資料においても、当時のバビロニア人が位取りでミスをしていた記録が残っています。

まとめ・参考文献

 バビロニアにおける加減乗除の方法について解説してきました。 

  • たし算は、$~60~$の繰り上がり注意しつつ、同じ種類の数字を書き加えればよい。
  • ひき算は、$~60~$の繰り下がり注意しつつ、同じ種類の数字を取り除けばよい。
  • かけ算は、「積表」で調べるだけ。
  • わり算は、ケタのズレに注意しつつ、「逆数表」と「積表」を使う。

 $~60~$進法では、かけ算とわり算がやりづらかったため、「数表」という文化が発達しました。

 次の記事では、加減乗除を組み合わせて解く、方程式について解説します。

 数表、チートでは?

でも、わり算の位取りのミスが多かったから、頭もしっかり使う必要があるよね。

参考文献(本の紹介ページにリンクしています)

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